レポートからの逃避にこんなの書いてた

ユスティニアヌスは確信した。だめだ、それではだめなのだ。東方を守っていたところでなんに成る。
やがて蛮族どもに蹂躙される為だけにわれらの土地を保持せよというのか。
打って出なければ。かつての栄光を。あの輝かしきローマを蛮族から奪回し、われらの手に。
ローマ! 我らの都。世界の中心。古き輝かしき時代。
「ペルシアとは和睦だ。貢納金を支払い。国境警備以外の軍団を転進させる」
「どうなさるおつもりで?陛下」テオドラは訝しげにユスティニアヌスを見る。
「我らの国は何だと思う?」
「偉大なるローマ」嘲る様に言葉をつむぐ
「その残骸」
「で、あるならば」ユスティニアヌスは決意を表明した
「取り戻せばよいのだ。栄光も。力も。そしてローマも」
「陛下」テオドラは驚きを隠さなかった
「決めたのだ。私は。ローマの正帝であるこの私が。」
 テオドラは眉を潜めた。
 ローマを奪回する?何を考えているのかしら。あの栄光の残骸にいつまでもしがみ付いて、何になると。
 ペルシアへ送る金、征服の過程で消えていく戦費。そして兵士。それがあればどれだけ我々が生き残れると思っているのか。
 最悪遠征軍が反乱を起こしてここへ攻め寄せるかもしれない。それら全てを看過せよと?
 莫迦な。なんて莫迦な。それだけのものがあれば――
 ああ。こんな事ならば。

 テオドラは正面の夫を見た。彼はいつに無く上機嫌で将軍を呼び出す手はずを整えている。

 あの時共に死んでいればよかったのかもしれない。何しろ紫衣は最高の死に装束なのだから


 彼女の予感は正しかった。
 帝国は征服の泥沼につかりながらも過去の栄光。その一部を取り戻す事になる。そしてそれは来るべき破局の足音を踏み鳴らすのだ。